「防災リュック、ネットのチェックリスト通りに全部そろえました」。そう話される方は、とても多いです。準備されたこと自体は、本当に素晴らしいと思います。
ただ、正直にお伝えします。私が東日本大震災や熊本地震の現場で実際に見てきた持ち出し袋の多くは、中身の半分以上が使われないままでした。重すぎて背負えず、玄関に置いていかれたリュックも、いくつも見ています。
私は元消防士として20年、救急救命士として被災地にも派遣され、災害の現場を見てきました。この記事では、その現場の視点から「正直いらなかったもの」と「本当に役立ったもの」を、本音でお話しします。読み終えるころには、あなたのリュックから“重りになるだけの物”を抜いて、軽くて、確実に持ち出せて、命と生活を支える物だけに絞れるはずです。
リストに載ってる物、全部入れなきゃダメなんじゃないの?
いえ、逆です。全部入れると重すぎて、肝心のときに持ち出せません。現場で本当に使われた物は、思っているより少ないんですよ。
なぜ「完璧なリスト」は現場で破綻するのか
結論から言うと、原因は2つです。「重さ」と、「一次と二次の混同」です。
理由1:人は思ったほど重い荷物を背負って逃げられない
成人男性でも、瓦礫やガラスが散らばる足元を、安全に歩いて避難できる重さは10〜15kgが現実的な上限です。女性やお子さん連れなら、さらに軽くする必要があります。ところが、ネットのリストを全部詰め込むと、20kgを軽く超えてしまうことも珍しくありません。
理由2:「一次」と「二次」を混ぜてしまう
防災リュックには2つの役割があります。一次は、数分で背負って逃げるための最小限。二次は、後で取りに戻ったり自宅避難で使う備蓄です。この2つを1つのリュックに混ぜるから、重くなって持ち出せなくなるのです。まずはこの線引きを、しっかり押さえてください。
一次リュックの合言葉は「軽く・すぐ・両手が空く」。この3つに当てはまらない物は、思い切って二次へ回しましょう。
【正直】被災地で“いらなかった”防災グッズ
はじめにお断りします。ここで挙げる物は「絶対に不要」という意味ではありません。一次リュックに入れると、重さで本末転倒になりやすい物、という意味です。
① 大量の缶詰・重い非常食
缶詰は重く、開けるのも手間です。一次に入れるなら、軽くてそのまま食べられる物を1〜2日分で十分。大量のストックは二次(自宅備蓄)の役割です。
② 何セットもの着替え
避難の初日からファッションを気にする余裕はありません。下着とインナー1セット+体温調節用の上着があれば十分です。着替えのかさは、想像以上にリュックを圧迫します。
③ 大きく重い懐中電灯
片手がふさがる懐中電灯より、両手が空くヘッドライトが圧倒的に役立ちます。暗闇で子どもの手を引き、荷物を持つには、手は空いているほどよいのです。
④ 使い慣れないアウトドアギア
「防災のために」と買った多機能ギアは、いざというとき使い方が分からず眠ったままになりがちです。普段の生活で一度も使っていない道具は、本番でも使えないと考えてください。
⑤ 賞味期限切れの非常食・通帳の原本
点検されないまま期限切れになった非常食は、いざというとき食べられません。通帳やマイナンバーカードの原本も、紛失リスクを考えるとコピーで十分なことがほとんどです。
【本音】被災地で本当に役立ったもの
逆に、被災地で本当に役立ったとされるものには、共通点があります。共通していたのは、情報・衛生・電源に関わる物でした。
① 電源(モバイルバッテリー/ポータブル電源)
これは現場で最も「足りなかった」と聞いた物です。スマホは、情報収集・家族との連絡・ライト・身分証明まで担う命綱。その電池が切れた瞬間、一気に孤立します。小型のモバイルバッテリーは一次に必ず。さらに、停電が長引く自宅避難まで考えるなら、ポータブル電源が一台あると安心感がまるで違います。
私自身、我が家ではEcoFlow DELTA 2を2年使っています。スマホやランタンはもちろん、扇風機や小型家電まで動かせるので、「停電してもなんとかなる」という心の余裕が生まれました。価格と容量のバランスがよく、はじめての一台として選びやすい機種です。
② ヘッドライト
前述の通り、両手が空くのが最大の利点です。夜間の移動、暗い室内での作業、子どもの世話——あらゆる場面で活躍します。
③ 携帯トイレ
盲点になりがちですが、断水時に最も多くの方が困るのがトイレです。我慢は健康を直接むしばみます。1人あたり1日5回×最低3日分を目安に。
④ 現金(小銭・千円札)
停電するとキャッシュレス決済もATMも使えません。自動販売機や個人商店での少額の支払いに、小銭と千円札が効きます。詳しくは災害時の現金の備え方でまとめています。
⑤ 常備薬・お薬手帳のコピー・ウェットティッシュ・ゴミ袋
持病の薬は代わりがききません。ウェットティッシュとゴミ袋は、断水時の衛生管理に何役もこなす万能選手です。
まずはこれだけ——一次リュックの最小構成
迷ったら、まずこの基本セットから始めてください。軽さを最優先に、必要なら少しずつ足していきます。
- 飲料水(500ml×2本)
- 携帯トイレ(最低3日分)
- ヘッドライト+予備電池
- モバイルバッテリー
- 常備薬・お薬手帳のコピー
- 現金(小銭・千円札)
- ウェットティッシュ・ゴミ袋
- ホイッスル・軍手・簡易レインコート
- 軽い非常食(1〜2日分)
「自分で選ぶ自信がない」人へ——監修セットという答え
ここまで読んで、「結局、自分で全部そろえるのは大変そう…」と感じた方も多いと思います。その感覚は、まったく正しいです。
そういう方におすすめなのが、防災士や消防士が監修した既製セットを“土台”にして、足りない物(電源・携帯トイレなど)だけを自分で足すやり方です。ゼロから集めるより速く、抜け漏れも防げます。私が中身を実際に確認して評価したセットを、下の記事で紹介しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 防災リュックは何日分を用意すればいい?
一次は、まず逃げるための最小限(1〜3日分)。長期の備えは二次(自宅備蓄)で分けて考えると、リュックが重くなりすぎません。
Q. 市販セットと自作、どちらがいい?
土台は市販の監修セット、不足分を自作で足す“ハイブリッド”が、いちばん速くて確実です。
Q. 家族の分は1つにまとめていい?
一次は1人1つが原則です。避難の途中ではぐれても、各自が最低限を持っていられるようにするためです。
まとめ:完璧なリストより、確実に持ち出せる一袋を
大切なのは、リストを完璧に埋めることではありません。重りになる物を抜き、電源と携帯トイレを足して、軽くて確実に持ち出せる一袋にすること。それが、現場を見てきた私の本音の結論です。
今日、ご家庭のリュックを一度open してみてください。「これは本当に背負って逃げられるか?」——その一点で見直すだけで、あなたの備えは確実に一段、強くなります。
完璧じゃなくていいんです。軽くて、すぐ持ち出せて、家族の命と生活を支えられる。それだけで十分、合格点ですよ。
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それではっ!

