医療的ケア児の停電対策|人工呼吸器は何時間もつ?ポータブル電源は買う前に役所へ電話を【元救急救命士】

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「停電したら、この子の呼吸器は何時間もつんだろう」——医療的ケアが必要なお子さんと暮らしていると、台風の予報が出るたびに、その計算が頭をよぎるはずです。電気が止まることが、そのまま命の問題になる。それが、うちの子と他の家庭との決定的な違いです。

この記事は、その不安を「数字」と「手順」に変えるために書きました。元消防士・救急救命士として20年、そしてポータブル電源DELTA 2を2年使ってきた立場から、①まず使える公的なお金、②機器は何時間動くのか、③必要な容量の出し方、④電気が尽きる前の手段、の順にまとめます。

先に、いちばん大事なことを書きます。ポータブル電源を買う前に、お住まいの役所に電話してください。多くの自治体で公費の対象になりますが、買ってからでは対象外になります。この記事の商品リンクを踏むのは、そのあとで構いません。

▶ この記事の結論(元救急救命士)

  • まず役所に電話。ポータブル電源・発電機は公費の対象になる場合があります(大分市は上限12万円、岡崎市は日常生活用具として基準額8万円など)。共通するのは「購入前の申請が必要」という点です
  • 機器によって必要な電気はまったく違います。人工呼吸器は最大210W前後/電気式たん吸引器は数W〜/パルスオキシメーターは20W前後。同じ「医療機器」でも40倍以上の差があります
  • 正直に書きます。DELTA 2(1,024Wh)では人工呼吸器は計算上およそ4時間。一晩はもちません。呼吸器を10時間動かすなら2,100Wh以上が必要です
  • 一方で吸引器やパルスオキシメーターだけなら、DELTA 2クラスでも数十時間もちます。「何を動かすか」で答えが変わります
  • 電源より先に用意するのは電気を使わない手段(手動・足踏み式の吸引器、バッグバルブマスク)。電池も電気も要りません
  • 停電する前にやること=電力会社への事前登録・機器業者の緊急連絡先・主治医との停電時の取り決め。ここまでやって、やっと電源の話になります
まもる

まもる

医療機器って、停電したらすぐ止まっちゃうの?

みんなの隊長

みんなの隊長

機器によります。人工呼吸器の多くは内蔵バッテリーを持っていて、数時間は動きます。逆に吸引器は使う時だけ電気が要ります。だから「うちの子の機器は、何が、何時間」を家族が把握しているかどうかが、そのまま備えの差になります。

まず確認してほしい|ポータブル電源は公費の対象になる場合があります

医療的ケア児のご家庭にとって、非常用電源は「あったらいいもの」ではなく必需品です。そして各地の自治体が、その購入費を補助する制度を持っています。ところが制度の名前も金額も自治体ごとにバラバラで、知らないまま自費で買ってしまう家庭が少なくありません。

実際の例を2つ挙げます。

  • 大分市:「医療的ケア児者非常用発電装置等整備事業費補助金」という独自の制度。発電機・ポータブル電源・カーインバーターが対象で、上限120,000円。人工呼吸器・酸素療法・経管栄養(ポンプ使用)・中心静脈カテーテル・注射管理(ポンプ使用)・自宅透析のいずれかを要する方が対象です(出典:大分市公式サイト)
  • 岡崎市など:国の日常生活用具給付事業の種目としてポータブル電源を給付。令和3年9月にこの種目が追加され、在宅で人工呼吸器または電気式たん吸引器を使用する方などが対象になりました。補助基準額は自治体により設定されています(岡崎市の例で80,000円)

いちばん大事な注意点:ほとんどの制度が「購入前の申請」を求めます

大分市の案内にも「購入前の事前申請が必須」と明記されています。先に買ってしまうと、同じ製品でも対象外になります。ネットで注文する前に、まずお住まいの市区町村の障害福祉課に電話して、「医療的ケアが必要な家族がいて、非常用電源を検討している」と伝えてください。制度の有無、対象、金額、必要書類(医師の指示書の写しなど)をその場で教えてもらえます。

制度がない自治体もあります。それでも電話する価値はあります。窓口で「そういう要望がある」と伝わること自体が、制度ができる一歩になるからです。実際、この種目が国の給付事業に加わったのも、現場の声が積み上がった結果です。

機器は停電で何時間動くのか|まず「内蔵バッテリー」を確認する

停電したとき、すべての機器が同時に止まるわけではありません。最初に確認するのは内蔵バッテリーの有無と持続時間です。

人工呼吸器の多くは内蔵バッテリーを備えていて、停電後も一定時間は動き続けます。ただし持続時間は機種・設定・バッテリーの劣化具合で変わります。カタログ値が何時間であっても、数年使った実機がその通りに動くとは限りません。ここは必ず、機器を借りている業者か主治医に「うちの実機は今、何時間もちますか」と確認してください。

一方で、次の機器は電気が来た瞬間しか動きません。

  • 電気式たん吸引器:内蔵バッテリー付きの機種もありますが、充電が切れていれば使えません
  • 加温加湿器:呼吸器本体が動いていても、加湿が止まることがあります
  • 経管栄養のポンプ・パルスオキシメーター:機種により内蔵電池あり

つまり停電の初動は、「呼吸器は内蔵バッテリーで動いている。その間に、吸引器の電源をどう作るか」という時間との勝負になります。

消費電力の目安|同じ医療機器でも40倍以上の差がある

電源を選ぶには、まず「何Wの機器を、何時間動かすか」を知る必要があります。公表されている目安は次のとおりです。

機器 消費電力の目安 DELTA 2(1,024Wh)での目安
人工呼吸器(トリロジー等) 最大210W前後 約4時間
パルスオキシメーター 約20W 約40時間
低圧持続吸引器 約5W 約160時間

※消費電力は公表資料の目安です。DELTA 2の欄は「1,024Wh×0.8÷消費電力」で計算した理論値で、実際は機器の動作状況・気温・バッテリーの状態で変わります。必ず実機で確認してください。

この表で伝えたいのは、「医療機器だから大容量が必要」という考え方は正確ではないということです。吸引器だけなら小さな電源で何日も動きます。けれど人工呼吸器が入った瞬間、必要な容量は一気に跳ね上がります。

正直に書きます|DELTA 2では人工呼吸器の一晩はもちません

私はDELTA 2(1,024Wh)を2年使っていて、この記事でも本来なら勧めたいところです。ただ、数字がそれを許しません。

人工呼吸器を210Wとすると、DELTA 2で動かせるのは計算上およそ4時間です。夜10時に停電したら、翌朝を迎える前に空になります。「ポータブル電源があるから大丈夫」とは、この場合とても言えません。

必要な容量の出し方(この式だけ覚えてください)

機器の消費電力(W) × 動かしたい時間(h) ÷ 0.8 = 必要な容量(Wh)

例:人工呼吸器210Wを10時間 → 210×10÷0.8=約2,600Wh。吸引器やモニターも同時に使うなら、その分を足します。0.8で割っているのは、変換ロスで容量を全部は使いきれないためです。

この計算をすると、多くのご家庭で2,000Wh級以上が必要という答えになります。私はその容量帯の製品を自分では使っていません。だから「この機種がいい」とは書きません。実際に使っていない物を勧めるのは、このブログでやらないと決めています。

代わりに、選ぶときの条件だけ挙げます。医療機器の電源としては、ここを外さないでください。

  • 正弦波(純正弦波)であること:安価な「修正正弦波」の製品は、精密機器で誤作動や故障の原因になります
  • 必要な容量(上の式で出した数字)を満たすこと
  • 出力(W)が機器の最大消費電力を上回ること:容量が足りていても、出力が足りなければ動きません
  • 充電しながら給電できること(パススルー):発電機や車から充電しつつ使えます
  • 主治医・機器業者が「この機種で問題ない」と言うこと:最後はここです。カタログではなく、担当者の確認を取ってください

なお、吸引器やパルスオキシメーターだけを動かすのが目的なら、DELTA 2クラス(1,024Wh)でも十分です。用途によっては過剰でもありません。何を守るための電源なのかを、先に決めてください。

▼ 吸引器やモニターの電源として検討するなら、2年使った実機のレビューはこちら

→ DELTA 2の口コミと2年使った正直レビューを読む

「何時間もてばいいのか」の答え|過去の停電から逆算する

必要な容量を計算するとき、多くの方が迷うのが「何時間分を想定すればいいのか」です。ここは希望的観測ではなく、実際に起きた停電から逆算してください。

  • 2019年の台風15号(千葉県):最大約93万戸が停電し、99%の復旧まで約280時間(約12日)を要しました(出典:経済産業省・資源エネルギー庁の検証資料)
  • 2018年の台風21号(近畿中心):最大約225万戸。大半は数日で復旧したものの、倒木などにより完全復旧まで約2週間かかった地域があります

つまり、「一晩さえしのげれば」という前提は成り立ちません。とはいえ12日分の電気を自宅に蓄えるのは現実的ではないので、考え方はこうなります。

現実的な目標は「自力で丸1日」+「外部から補充できる状態」

自宅の電源だけで数日を支えるのではなく、①自力で24時間もたせる ②その間に、充電できる場所へ移るか、発電機や車から補充する——この2段構えが現実解です。避難先を「電源がある場所」で決めておくことが、容量を増やすことと同じくらい重要になります。

車を電源にする方法と、その危険

自治体の補助対象にカーインバーター(車のシガーソケットなどから100Vを取り出す装置)が含まれていることがあります。車があるご家庭にとって、これは現実的な補充手段です。

ただし、元消防士として絶対に守っていただきたいことが1つあります。

車庫・カーポート・雪が積もった車での使用は絶対にやめてください

カーインバーターを使うにはエンジンをかけ続ける必要があります。排気ガスに含まれる一酸化炭素は無色無臭で、閉じた空間では短時間で意識を奪います。屋外の風通しのよい場所に車を出し、排気口の周りに雪や物がないことを確認してから使ってください。車内で待機する人がいる場合も、窓を開けて換気を保ちます。

加えて、シガーソケットから取り出せる電力には限りがあります(一般に120W前後まで)。人工呼吸器のような大きな機器を直接つなぐのではなく、ポータブル電源を車から充電し、機器はポータブル電源につなぐ——この使い方が安全で確実です。バッテリー上がりを防ぐため、エンジンはかけたままにしてください。

電気が尽きる前に|電気を使わない手段を先に用意する

ここがいちばん伝えたい部分です。電源は必ず尽きます。停電が想定より長引いたとき、最後に家族を支えるのは電気を使わない手段です。

  • 手動式・足踏み式の吸引器:電気も電池も不要です。使い方には慣れが必要なので、平常時に一度は使ってみてください。いざというときに初めて触るのでは間に合いません
  • バッグバルブマスク(アンビューバッグ):人工呼吸器が止まったときの手段です。主治医や訪問看護師から、必ず実物で指導を受けてください
  • 予備の内蔵バッテリー:機器業者から追加で借りられる場合があります。「停電に備えて予備を持ちたい」と相談してみてください
  • シリンジ(注射器):経管栄養のポンプが止まっても、手押しで注入できる場合があります。こちらも必ず事前に指導を受けてください

これらはポータブル電源より先に揃えるべきものです。高価な電源を買う前に、まず手動の手段と、その使い方の練習から始めてください。

停電する「前」にやっておく5つ

電源と道具が揃っても、連絡先が分からなければ動けません。次の5つは、今日のうちに紙に書いて冷蔵庫に貼っておけるものです。

  1. 電力会社へ事前に登録する:医療機器を使用している家庭として登録しておくと、計画停電の対象外になったり、復旧時の優先順位で配慮されたりする場合があります。各電力会社の窓口に「在宅で医療機器を使っている」と伝えてください
  2. 機器業者の24時間緊急連絡先を控える:昼間の代表番号ではなく、夜間・休日につながる番号を確認しておきます
  3. 主治医と「停電時の取り決め」を作る:何時間もたなくなったら受診するのか、救急要請するのか。判断の線引きを平常時に決めておくと、当日迷いません
  4. 避難先を「電源がある場所」で決める:一般の避難所ではなく、福祉避難所や受け入れ可能な医療機関を、市区町村の障害福祉課に確認しておきます
  5. 近所と消防に知っておいてもらう:お住まいの地域によっては、災害時要配慮者の登録制度があります。「この家には電気が命綱の子がいる」と知られていることが、初動の助けになります

紙に書いて、冷蔵庫に貼る

停電の夜は、スマホの画面を探す余裕がありません。機器業者の緊急連絡先・主治医・電力会社・福祉避難所の4つを紙に書いて、冷蔵庫に貼ってください。付き添いを頼む人が来たときにも、その紙がそのまま引き継ぎになります。

医療的ケア児の停電対策についてよくある質問

Q. ポータブル電源は、本当に補助してもらえますか?

A. 自治体によります。大分市のように上限120,000円の独自補助金を持つ市もあれば、国の日常生活用具給付事業の種目として給付する市町村もあります。制度がない自治体もあるため、まずお住まいの障害福祉課に電話で確認してください。共通する注意点は「購入前の申請が必要」という点です。

Q. 人工呼吸器はポータブル電源で何時間動きますか?

A. 機器の消費電力によります。210Wの機種をDELTA 2(1,024Wh)で動かす場合、計算上およそ4時間です。10時間動かしたいなら約2,600Whの容量が必要になります。実際の持続時間は機器の動作状況で変わるため、必ず機器業者に確認してください。

Q. 安いポータブル電源でも大丈夫ですか?

A. 医療機器には「正弦波(純正弦波)」の製品を選んでください。安価な製品に多い「修正正弦波」は、精密機器で誤作動や故障を起こす恐れがあります。加えて、容量だけでなく出力(W)が機器の最大消費電力を上回っているかも確認が必要です。

Q. 電気が尽きたらどうすればいいですか?

A. そうなる前に動くのが原則です。手動・足踏み式の吸引器とバッグバルブマスクを用意し、使い方を平常時に指導してもらっておいてください。そのうえで、残量が減ってきた時点で主治医や救急に相談する——この線引きを事前に決めておきます。

Q. 停電が起きたら、まず何をすればいいですか?

A. ①呼吸器の内蔵バッテリーが動いているか確認 ②残量と、あと何時間かを把握 ③機器業者と主治医に連絡 ④電源を接続 ⑤それでも足りないと判断したら、早めに救急要請や受診の相談をする、の順です。冷蔵庫に貼った紙のとおりに動けば、迷わずに済みます。

まとめ:数字にすれば、不安は手順に変わる

  • 買う前に役所へ電話。ポータブル電源・発電機は公費の対象になる場合があり、ほぼ例外なく「購入前の申請」が条件です
  • 機器ごとに必要な電気はまったく違う。人工呼吸器は210W前後、吸引器は数W〜
  • DELTA 2(1,024Wh)では人工呼吸器はおよそ4時間。10時間なら約2,600Whが必要
  • 選ぶ条件は「正弦波・容量・出力・パススルー・主治医と業者の確認」
  • 電源より先に、手動吸引器とバッグバルブマスク。そして使い方の練習
  • 電力会社への事前登録・緊急連絡先・福祉避難所を、紙にして冷蔵庫へ

停電が怖いのは、何が起きるか分からないからです。けれど機器の消費電力と、もつ時間と、連絡先が分かっていれば、停電は「対応できる出来事」に変わります。まずは今日、機器業者に電話して「うちの実機は何時間もちますか」と聞いてみてください。そこから始められます。

それではっ!